2010年11月15日月曜日

かたつむりの背のび

「蝸牛(かたつむり)が背のびをしたように延びて、海を抱え込んでいる函館の街」―高校の地理の授業で、函館の街が乗っている砂州のことをトンボロと習った記憶があります。くびれた独特の地形が夜景を美しいものにしているのですが、きっと多くの文学作品がこの地形を形象化していると思います。
「蝸牛が背のび・・・」もそのひとつ。小林多喜二の『蟹工船』の冒頭部分「地獄さ行くんだで!」に続く文章で、若い頃読んだときには、ストーリーにあまり関係ないので気にもとめませんでした。冒頭シーンは船のデッキ上なので、そこから函館の街は「蝸牛の背のび」に見えないはず。これは作者多喜二の視点です。多喜二は執筆に先立ち函館の街を取材し「蝸牛の背のび」が見える小高いところに立ったのではないでしょうか。そこを探して「多喜二の『蝸牛の背のび』」と名づけたら楽しいと思います。リバイバル小説『蟹工船』の函館人ならではの読み方がきっとあるはず。(『コーヒータイム』 2007.7.27号)
追記 函館市民は、函館山と反対側の横津連峰側の高台から見る夜景を「裏夜景」と呼びます。函館山からの夜景が悪天候のために見えないときのために、裏夜景を観光スポットにしたらどうかという意見もありますが、私には世界一の函館の夜景を安売りするような抵抗感があります。

0 件のコメント:

コメントを投稿