2017年8月11日金曜日

「お訴えさせていただきます」という演説冒頭の言葉について

いまは亡き私の先輩議員がかつてだれかの演説を聞いていて「こういうのイヤだね」とボソッとつぶやいたことがありました。それは演説の内容ではなく冒頭の部分「お訴えをさせていただきます」。イヤな理由は言いいませんでしたが、その先輩は短い言葉で小気味よく話す人だったので、「言い回しが長たらしい」とか「くどい」ということなのかなと私なりに思っていました。
実は、今日読み終えた井上史雄『新・敬語論 なぜ「乱れる」のか』(NHK出版新書 2017.1)に、「お訴えさせていただきたい」の不自然さという見だしがついた文章が載っていたので紹介したいと思います。
選挙で「お訴え(を)させていただき~」と言う候補者がいる。抵抗を覚える人が多いようで、新聞やインターネットで話題になる。NHKの世論調査でも評価が低い。違和感の理由は二つある。
一つは「訴える」という動詞との不適合である。世論調査によると、「~させていただく」の受容度は動詞によって違う。恩恵をもたらすような意味だとよく使われる。しかし「訴える」は押し付ける感じなので、「~させていただく」とは結びつきにくい。
もう一つは形の目新しさである。「~させていただく」の上に「お」を付けたとも、「お~する」の下に「せていただく」を添えたとも、見ることができる。「お~になる」の下に「れる」を添えた「お~になられる」と作り方が似ているが、こちらは二重敬語として非難される。「お~させていただき」も槍玉に上がりそうである。
ところが、インターネットで検索すると、「お~させていただく」は盛んに使われている。「お送りさせていただき」「お取引させていただき」「お引き受けさせていただき」の類が氾濫している。商業的な場面で庶民のことばとして使われる。しかし「お訴えさせていただき」は、庶民ではなく、政治家が使う。
(中略)(「お~させていただく」という言葉の ※高橋)出現の理由は「敬意低減の法則」で説明できる。元の言い方が使い古されて、敬意がすり減り、丁寧にひびく言い方が新しく登場するのだ。一般人と違う言い方だが、選挙などを通じて庶民の耳に入って広がる。普通のことばの乱れが若い人のくだけた場面から広がるのと逆のルートである。
この本では「お訴えさせていただく」 が、違和感があると書かれていますが、間違っているとは書かれていません。丁寧にひびく言い方とも書かれています。

ところで、今年の7月に都議選挙があり、私も共産党の一員ですから、仲間とともに youtube などで演説を聞いたりして、自分の党の応援をしていました。志位委員長が演説を始めました。ああ言ってる言ってる。「お訴えをさせていただきます」。でも内容はすばらしかった。この選挙、暴走の安倍自民党政権には厳しいお灸がすえられ、共産党は躍進することができました。

「お訴えさせていただきます」――結局は好きか好きでないか、それだけのことかもしれませんね。