2016年1月29日金曜日

トク・ピシン語という名のクレオール 黒田龍之介「ことばは変わる」を読んで③ 

またまた黒田龍之介「ことばは変わる」についてです。「トク・ピシン語」というクレオールが紹介されています。

「トク」はtalkが起源とのこと。トク・ピシン語は、パプアニューギニアで総人口の約30パーセントにあたる100万人によって使われる共通語。

公用語は英語ですが、トク・ピシン語は議会、政府の機関誌、ラジオ放送などで広く使われているとのこと。名称こそ「ピシン」だが、これはまぎれもなくクレオールだと。

トク・ピシン語が形成される経緯については、注目されているのは説は、1910年代初頭にサモアのプランテーシヨンで働いていたニューギニア人が持ち帰った言語がもとになっているという説。本国に戻った彼らは広い社会の豊富な経験の持ち主として村人から尊敬された。700以上の多言語社会において、威信を持つ言語としての地位を確立するに至ったとのこと。

『入門ことばの科学』より、トク・ピシン語の例が紹介されています。すごくおもしろいんです。

A :E, wantok, yu go we?
B: Mi go long Boroko.
A :Bilong wanem?
B: Mi go bilong kisim mani long beng.

トク・ピシン語は英語が基盤。goは「行く」 だ。しかしweとかlongなど、英単語の知識で考えても分からない語彙も多いのです。

A :E, wantok, yu go we?
はじめのEは、英語のHiに相当、呼びかけの表現。wantokは「友だち」のこと。これはonetalk、つまり「同じ言語を話す人」というところから来ています。yuyou、wewhere。全体で「やあ、友だち、どこ行くの?」

B: Mi go long Boroko.
Miは「わたし」のことで、meから来ている。longはいろんな機能を持つ前置詞で、alongが起源らしい。ここでは「~ヘ」。Borokoは地名。「わたしはボロコヘ行くんだよ」

A :Bilong wanem?
これはまとめて「どうして?」という意味。bilongは英語のofに相当、ここでは理由を示しています。wanemwhat nameから。「どのような名前によって」が「どうして」になるわけだ。

B: Mi go bilong kisim mani long beng.
Migobilonglongは説明済み。kisimは「受け取る」で、catch’emから。最後のbengbankでmanimoney。「お金を受け取るために銀行ヘ行くんだよ」。まるでパズルのよう。

トク・ピシン語の特徴

発音は二重母音や長母音が短く単音化(paper→pepa)
語末音の省略→handがhan

語彙は個々の語の意味範囲が広くなる。hanはhandのほかにarm,sleeve, branchといった意味も持つ。

復合語を形成すると表現が広がる
hausはhouse「家」だが、複合語haus pepa「紙の家」が「オフィス」、haus sik(<sick)が「病院」、haus dring(<drink)は「ホテル」

文法、英語やフランス語にあるような時制、法相、人称、性、数による形態の変化は、ほとんどしない。

新しい文法要素・・・トク・ピシン語では3人称に限り「主語と述語の間に、述語辞iと呼ばれる文法要素がある。「わたしは心配している」はMi wari.であり、「君は心配している」はYu wari.なのだが、「彼は心配している」はEm i wari.のように主語emと述語wariの聞にiが入るのである。これはメラネシアの諸言語の影響らしい。emは「彼」と「彼女」の両方を表すという。

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