2017年1月24日火曜日

母とのドライブと釧路の思い出と桜木紫乃の小説と

去年の秋のことです。週に1度、私は母と買物をするのですが、季節もいいし天気もよいので、買い物のあと、母を車に乗せて、函館市近郊の茂辺地川のサケを見て、新しくできた木古内の道の駅に行くことになりました。

自動車専用道路から見える当別(北斗市)の円山を見て「あれは帽子山かい?」、セメント工場の煙を見て「あれは十条製紙かい?」と聞く母に、私は「また進んだなあ」と思いました。「帽子山」というのは、釧路近郊のたしか川湯温泉の方の山のこと、十条製紙(今は名前が変わっていると思うけど)は釧路市内の製紙工場のこと。母は函館と昔住んでいた釧路の区別が付かなくなってきているのでした。

それまでは、自分が5分前に話したことも忘れて、何度も同じことを聞くという状況だったんです。聞いたという事実を忘れているので本人にとっては初めて聞くことで、家族で申し合わせて、初めて母のその話を聞いたことにして、いちいち「こうこうだよ」と答えるようにしていたんです。小学3年生の私の孫(母にとってはひ孫)もそのいいつけを守って、同じ答えをきちんとしていました。でも、何度もする質問のことが母の気にしていることだということがよくわかるので、気持ちがわかっていい面もあるなあと、そんな状況でした。

「帽子山かい?」「十条製紙かい?」というのは、それまでの物忘れとは質が違うので、「進んだなあ」と思ったわけです。

数年前から徐々に進んでいるわけですが、「母が元気なうちに」と思って、所沢の(私の)弟を誘い、3年前から毎年、夏または秋に一週間ほど、母が子どものころから30代半ばまで過ごした釧路に小旅行に行くようになりました。母はまだ生きているきょうだい、母の姉や弟に会って、「昔は春採湖の氷の上を歩いて学校に行った」とか、「炭鉱のずり山に行って石炭を拾った」とか、昔話を楽しそうに話していて、連れてきてよかったなどと思っているわけです。

私にとっても釧路は故郷で、生れた時から小学校を卒業するまでを過ごしたところなので、釧路に行っては、ゆかりの場所、たとえば通っていた光陽小学校とか、通った通学路とか、住んでいた愛国という地域とか、そういうところを訪ねてみて、様変わりした釧路の町に驚いたり、住んでいた痕跡をみつけて喜んだりで楽しんでいます。

最近びっくりしたのは、フェイスブックでお友達になった方が、小学校の同級生の女の子だったこと。女の子と言っても私と同じ年なんですけど。子どものころのことがいきなり甦ってきました。お父さんが交通事故で亡くなったS君、お葬式が終わって学校に来た彼がおどけて言ったこと。「(こんなことがあったから)俺、(みんなに声をかけてもらい)もててよかった」、正確じゃないけど。そんなこと言ってたっけ。子どもながら、痛々しいと思ったな。

私の住んでいたところは、湿原のヘリのところで、カエルの卵を取りにいくゾと子どもたちで出かけたりしたもんです。「アッ見つけた」とだれかが声を上げ水たまりに入ると、ズボズボッと吸い込まれていったり。

そんな釧路という町を舞台にした小説をたくさん書いているのが桜木紫乃という作家です。この作家、「起終点駅ターミナル」という映画を見たことをきっかけに知りました。札幌の友人がこの映画に出てくる若手女優本田翼が「ひまり(私の孫)そっくり、特にあごのあたり」ということで、孫自慢のネタつくりで見たんです。この映画のストーリーに深入りはしませんが、釧路が舞台になっています。幣舞橋も出てきてました。

それだけだったら「いい映画を見た」で終るのですが、たまたま図書館でその原作『起終点駅』という短編集のを見つけ読んだのです。「起終点駅」はその中の一編でした。これも「いい本を読んだ」で終るのですが、たまたまお父さんの介護をしている知人の女性と会った時、「私の人生は桜木紫乃の『ラブレス』みたい」と言っていたことに刺激を受けて、それから桜木紫乃が病みつきになってきているというわけです。

『ラブレス』のあと、『無垢の領域』『ホテルローヤル』『凍原』とつづき最近『硝子の葦』を読み始めたばかり。その舞台は・・・

『ラブレス』は釧路市内と近郊の標茶町中茶安別(なかちゃんべつ)。釧路市内のイタリア風レストラン「泉屋」が登場。本当にある店です。私も子どものころ家族でスパゲティを食べに行ったんですよね。中茶安別については以前FBで次のような投稿を書いたことがあります。
釧路から国道272号線を中標津の方に向かって30分ほど車を走らせると標茶(しべちゃ)町中茶安別(なかちゃんべつ)というところにたどり着きます。途中、国道の両側に木が生い繁り、樹木が途切れるとそこから牧草地や畑の景色が広がります。中茶安別の信号交差点の辻には、阿寒バスの停留所、セイコーマート、中茶安別小中学校、公民館と何軒かの家があり、それでもこの地域の一番の繁華街になっているようです。この中茶安別は桜木紫乃の小説『ラブレス』の舞台となっています。開拓農家に育った女性が旅芸人の一座の仲間になり、釧路に戻ってからも波乱に満ちた一生を送る物語で、ぐいぐいと惹かれて読み終わったのですが、せっかく釧路に来たので早起きして足を伸ばしてみました。
『無垢の領域』は、釧路の図書館とその周辺が舞台になっています。その丘からは釧路川を見下ろすことができます。この作家、そういう釧路の自然やその景色と登場人物の心の景色を重ね合わせて書くことが上手なんですよね。これはすごい。それは霧であったり、寒さであったり、河であったり、湿原であったりするんですけど。

『ホテルローヤル』は、釧路町内にあると思われるラブホテルの名前。そのホテルと釧路市内に住む人々のことが書かれています。ちなみに釧路市のとなりは釧路町。同じ自治体名が隣り合っていてややこしいのですが別の町です。私がいたころは釧路村でした。これまたさきほど書いたS君は、釧路村セチリ太というところから通ってきていました。

『凍原』は、釧路の湿原の「谷地眼(まなこ」に吸い込まれて死んだ子が登場します。標茶町の塘路湖周辺も。

『硝子の葦』は読み止しですが冒頭部分は厚岸町です。

桜木紫乃の作品の登場人物は重い人生を背負った人が多く、なかなか切ないのですが、ストーリー展開もうまくて飽きさせません。しばらく桜木紫乃で釧路を楽しむことを続けたいと思います。

以下、私が写した釧路と近郊の写真です。写真の整理ができていないのでとりあえずの分だけ。



泉屋のスパゲティ


昨年の夏足を伸ばして行ってきた標茶町
中茶安別



釧路湿原駅付近
春採湖

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