2018年6月10日日曜日

映画『羊と鋼の森』を見て

宮下奈都さんの小説『羊と鋼の森』が映画化されるということを知って心待ちにしていたのですが、今日、シネマ太陽函館で見てきました。

『羊と鋼の森』というタイトルは、その言葉だけではよくわからないのですが、「鋼」というのはピアノ線のこと、「羊」というのは、そのピアノ線を叩くハンマーを覆っているフェルトのこと、「森」はその全体のことを指しています。この小説はそのピアノの音を整える調律師をめざし一人前になろうとする外村直樹青年(山﨑賢人)の成長物語です。

この作品はピアノの「音」の世界を描いていますが、「音」を文章だけで表現するということに挑戦していてすごいなあと思って読みました。今回映画化されて、舞台となっている北海道の旭川付近からの、大雪の山なみや森の風景の美しい映像にピアノの音が加わりすがすがしい見事な仕上がりになっています。

自分が通う学校のピアノを調律に来た板鳥さん(三浦友和)が鳴らすピアノの音に直樹は自分が育った田舎の森を渡る風の匂いを感じます。ピアノの音の違いを卵の茹で加減で説明する場面もあります。

板鳥さんはめざすピアノの音に原民喜の文体論まで登場させます。「明るく静かに澄んで懐しい文体、少しは甘えてゐるやうでありながら、きびしく深いものを湛へてゐる文体、夢のやうに美しいが現実のやうにたしかな文体……私はこんな文体に憧れてゐる」と。直樹はそれをメモにとります。

調律師の先輩で笑顔がホッとする柳さん(鈴木亮平)、ちょっととっつきにくい秋野さんとの交流、お客さんである引きこもりの青年、双子の姉妹との交流も見どころです。

『羊と鋼の森』もそうなんですが、音を描いたものとしては平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』、絵画について描いたものとしては原田マハさんの『暗幕のゲルニカ』もお勧めです。いい小説をもっと読みたいし、いい映画をもっとみたいですね。

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