2017年2月3日金曜日

『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』を読んで

藤田孝典『貧困世代』(講談社現代新書)をきのう読み終えました。ショックでした。サブタイトルが「社会の監獄に閉じ込められた若者たち」となっていますが、この表現が誇張でもなんでもなく、現代の若者たちの置かれた状況を的確に表現していると知ったからです。


もう20年ほど前のこと、今は亡き父が私に向かって言いました。「お前たちは大変だなあ」って。そのころは、ちょうど年金の支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられることが決まったころで、私たちの世代の暮らしのことを「大変だなあ」と言ったのです。



その父が亡くなったのは2000年、満70歳のときでした。父は1929年(昭和4年)生れ、15歳で予科練に志願し入隊。終戦により死にはしませんでしたが、最近遺品を整理する中で発見した父の自啓録には、学校の朝礼で「サイパン島の玉砕の話をされ」、「そのことで怖れてはいけないと話された」と。そして「全国民注視のまとである飛行予科練を志願した」と書かれています。つまり死ぬことを志願したわけです。

そういう世代の父から私たちの世代、私は1959年生まれですが、私たちの世代が「大変だなあ」と感じたことが、意外というか、それで父の言葉をずっとおぼえているわけです。

その私も還暦まであと3年の年になって思うのは、31歳と29歳の私の子どもたち、そしてまだ小さい孫たちを見て、「お前たちは大変だなあ」と父と同じことを思ってしまうのです。

若者たちが「大変だなあ」と思うことは、現役の市議会議員時代も感じていました。仕事を函館市内では見つけられず、首都圏や名古屋とかはるか遠いところの派遣労働者になり、それでも夢をもって海峡を渡った若者たちが、過酷な労働で病気になったり、派遣切りに会ったりして、病気や失意の中で、故郷に帰ってきて、そういう若者の相談をいたからです。

そのたびに、栄えている大企業の内部留保はこの若者たちの地と涙と汗の結晶なんだと、口惜しさと怒りを覚えたものです。

もし、人類の進化が、世代を追って暮らしに余裕ができて幸福感が増すところにあるなら、いまの時代はあまりにも異常だといわざるをえません。

『貧困世代』を今回読んであらためてよかった点は、「若者の中には大変な人がたくさんいる」という認識をはるかに超えて、世代丸ごと「貧困世代」ととらえることを知った点です。この本のカバーの扉にこう書かれています。
現代の若者たちはもはや、ロスト・ジェネレーションのような一時的な就職難や一過性の困難に置かれているのではない。雇用環境の破壊を一因とする、一生涯の貧困が宿命づけられている
若者たちは何らかの政策や支援環境の変更がない限り、ワーキングプア(働いてもなお貧困状態に置かれた人たち)から抜け出せないことも増えてきている。
ここでわたしは、現代の若者たちは一過性の困難に直面しているばかりでなく、その後も続く生活の様々な困難さや貧困を抱え続けてしまっている世代であると指摘したい。彼らは自力ではもはや避けようがない、日本社会から強いられた貧困に直面している。日本史上でも類を見ない、特異な世代である
だからこそわたしは、彼らの世代を「貧困世代(プアジェネレーション)」と総称することにした。
この本は第2章をまるごと「大人が貧困をわからない悲劇」についてあて、「よく語られる5つの『若者論』の誤りとして、①働けば収入を得られるという神話(労働万能説)、②家族が助けてくれるという神話(家族扶養説)、③元気で健康であるという神話(青年健康説)、④昔はもっと大変だったという時代錯誤的神話(時代比較説)、⑤若いうちは努力をするべきで、それは一時的な苦労だという神話(努力至上主義説)を指摘しています。

大人が若者の「貧困世代」的な状況を知らないまま、励まそうとする言葉、アドバイスが、逆効果になり、若者を傷つけることがあるという、私自身にも耳の痛くなるような、もっともな指摘でした。

さて、このように認識してはじめて、「それではどうしたらよいのか」という方策も生まれてきます。私がなるほどと思ったのは、高齢者には高齢者福祉が、障がい者には障がい者福祉が、子どもには児童福祉があるが、若者にはそのようなものがないと。若者を「貧困世代」ととらえるならば「若者福祉」(本ではこのような言葉を使っていませんでしたが)が必要になるということです。

第5章「社会構造を変えなければ、貧困世代は決して救われない」では5つの提言がされています。(①新しい労働組合への参加と労働組合活動の復権、②スカラシップの導入と富裕層への課税、ここでスカラシップというのは給付型奨学金のことです。③子どもの貧困対策とも連携を、④家賃補助制度の導入と住宅政策の充実が貧困を止める、⑤貧困世代は闘技的民主主義を参考に声をあげよう)

見出しだけの紹介だけではわかりずらいかもしれませんが、そういう方にはこの本を読んでみることをお勧めします。

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